chemSHERPAの管理対象物質リストを開くと、物質名や CAS RN(Chemical Abstracts Service 登録番号)の隣に、アルファベット1文字の列があります。この列が管理対象基準です。
この1文字が、その物質をどういう条件で報告するのかを決めています。1文字なので見落とされやすく、そして読み違えると報告の範囲が丸ごとずれます。
管理対象物質リストの構造
まず、記号がどこに載っているかを確認します。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| LR01〜LR08 | 法規制に基づく要求 | POPs規則(LR05)、REACH SVHC(LR06)、REACH Annex XVII(LR07)、医療機器規則(LR08) |
| IC01〜IC02 | 業界からの要求 | GADSL(IC01)、IEC 62474(IC02) |
| 収載物質数 | 約8,000物質 | 法規制と業界要求を合わせた総数 |
| 管理対象基準 | 各要求ごとに付される記号 | 物質行と要求区分の組み合わせで決まる |
管理対象物質リストの最新版は Ver.2.13.00 で、正式版とツールの公開は2026年4月10日頃です。改訂内容は LR05 POPs規則、LR06 REACH SVHC(第34次・第35次)、LR07 Annex XVII、LR08 医療機器規則、IC01 GADSL、IC02 IEC 62474 の6項目で、EU規則 2025/1930・2025/1731・2025/1988 に対応しています。
記号は物質そのものに1つ付くのではありません。物質と要求区分の組み合わせごとに付きます。同じ物質でも、SVHC としての基準と GADSL としての基準が別々に存在し得ます。ここを「物質ごとに1つ」と思い込むと、片方を見落とします。
リスト全体のどこを見るかについては管理対象物質リストはどこを見ればいいのかにまとめています。
記号が分けているのは「対象になる条件」
記号の設計思想は、おおまかに2つの型に分かれます。
1つは、含有そのものが対象になる型です。その物質が入っていれば、用途に関係なく報告の対象になります。SVHC のように情報伝達義務が用途を問わない制度は、この型に馴染みます。
もう1つは、用途を限って対象になる型です。特定の用途、特定の製品カテゴリ、特定の部位に使われている場合にだけ対象になります。REACH Annex XVII の制限や、RoHS の適用除外が絡む条件付きの規制は、この型になります。
| 含有そのものが対象になる型 | 用途を限って対象になる型 | |
|---|---|---|
| 確認すること | 入っているかどうか | 入っているか、かつ、その用途に該当するか |
| 用途が違えば | 変わらず対象 | 対象外になり得る |
| 調査で聞くこと | 含有の有無と含有率 | 含有の有無、含有率、使われ方(部位・機能) |
| 報告漏れの起き方 | 含有率を見誤る | 用途の該当判定を誤る |
| 過剰報告の起き方 | ほとんど起きない | 用途に該当しないものまで拾う |
この2つの型のどちらに属するかを取り違えると、調査票で聞くべきことが変わります。用途を限る型なのに含有の有無しか聞かないと、後から用途を聞き直す往復が発生します。
未確認
「A」「C」といった個々の記号が、上記のどちらの型に対応するかについて、本稿執筆時点で管理対象物質リスト Ver.2.13.00 の凡例シートを直接確認できていません。記号の定義と適用条件は版によって変更され得ます。必ず、自社が使っている版のリストに同梱された凡例シート(用語・記号の説明シート)で確認してください。本稿は記号の読み方の枠組みを示すものであり、個別の記号の定義を断定するものではありません。
凡例シートをどこで開くか
管理対象物質リストは表計算ファイルで配布され、複数のシートで構成されています。物質の一覧シートだけを見て作業を始めると、記号の定義シートを開かないまま終わります。
作業の入口として、次の順で開くことをおすすめします。
- 改訂履歴のシート(前の版から何が変わったか)
- 凡例・用語のシート(記号の定義、判定条件の書式)
- 法規制別の要求シート(LR01〜LR08、IC01〜IC02)
- 物質一覧のシート
多くの人が4から入ります。1から3を飛ばすと、記号の意味を推測で埋めることになります。
改訂履歴を先に見る理由は、版が上がったときに記号の付け替えが起きている可能性があるためです。物質が増えただけと思っていたら、既存物質の基準が変わっていた、ということがあり得ます。
記号を読み違えると何が起きるか
具体的な不都合を並べます。
| 読み違いの方向 | 何をしたか | 直後に起きること | 後で起きること |
|---|---|---|---|
| 用途限定と誤読(本当は含有で対象) | 「この用途ではないから対象外」として申告しない | 提出時点では通る | 下流で照合されて差戻し。SVHC なら第33条の情報伝達漏れ |
| 含有で対象と誤読(本当は用途限定) | 用途に該当しない物質まで申告する | 調査範囲が膨らむ。サプライヤーの負担増 | 取引先から「なぜこれが載っているのか」と問われ、説明工数が発生 |
| 要求区分を1つ見落とす | SVHC だけ見て GADSL を見ない | 自動車向けの顧客から差戻し | 顧客ごとに別調査が走り、二重管理になる |
| 旧版の記号で判断 | 手元の古いリストで作業 | 気づかない | 版の不一致を指摘され、全件やり直し |
一番痛いのは最後の行です。版の不一致は、1件の修正では済まず、その版で作った成果物すべてに波及します。
だから判断のたびに、使った版を記録に残します。「管理対象物質リスト Ver.2.13.00 で判定」と1行書いておく。この1行があるかどうかで、再判定の要否を後から追えるかが決まります。判断の記録に何を残すかは遵法判断は誰がするのか、という最大の誤解でも触れました。
SVHC 側の状況を数字で押さえる
LR06 に対応する SVHC 候補リストは、2026年2月4日の第35次追加で253エントリーになりました。追加されたのはビスフェノールAF及びその塩の2物質群です。
その前の第34次は2025年11月5日で、DBDPE と n-Hexane が追加されています。従来は6月と12月から1月にかけての定期更新でしたが、この2回は例外的なタイミングでした。2026年9月時点で第36次は未公表です。
| 回 | 公表日 | 追加物質 | 追加後のエントリー数 |
|---|---|---|---|
| 第34次 | 2025年11月5日 | DBDPE、n-Hexane | 251(計算値・未確認) |
| 第35次 | 2026年2月4日 | ビスフェノールAF及びその塩(2物質群) | 253 |
| 第36次 | 未公表(2026年9月時点) | — | — |
エントリー数と物質数は一致しません。1エントリーに複数の物質が含まれる物質群があるためです。「253物質」と書くと不正確になる場面があるので、エントリーという語を使うほうが安全です。
追加が来たときの影響調査の進め方はSVHCが追加された時の影響調査を1日で終える手順に置きました。次回の見通しについてはSVHC第36次はいつ来るのかを参照してください。
収載方針の変更が控えている
2026年6月23日の告知で、CAS RN のある一般化学物質も管理対象物質リストに収載する方針への変更が示されました。実施は2026年秋の定期改訂からです。
これは、記号の運用にも影響し得ます。法規制に基づく要求でも業界要求でもない物質が載るとすれば、その物質をどう扱うかを示す何らかの区分が必要になるからです。
未確認
収載方針の変更にともなって管理対象基準の記号体系がどう変わるか、あるいは変わらないかについて、本稿執筆時点で公表情報を確認できていません。2026年秋の定期改訂が出た時点で、改訂履歴と凡例シートの両方を読み直してください。
調査票に書いておく1行
サプライヤーへの調査で、記号の読み違いを減らす簡単な方法があります。依頼文に、判定に使った版を明記してもらう欄を作ることです。
回答にあたり参照された管理対象物質リストのバージョン(例:Ver.2.13.00)をご記入ください。
この欄が空欄で返ってきたら、その回答はどの版で作られたか分かりません。数字が1つ埋まるだけで、後の照合が楽になります。返信が来ないサプライヤーへの働きかけは返ってこない調査依頼の督促テンプレート3段階に文面を置いています。
記号より先に確認すること
記号の読み方に悩む前に、そもそも自社がどの要求区分を見るべきかを決めておく必要があります。
電気電子製品だけを扱っているなら IEC 62474 が主で、GADSL は関係が薄い。自動車部品を納めているなら GADSL は必須です。両方に納めているなら両方を見ます。顧客のグリーン調達基準で追加の物質が指定されていることもあります。
要求区分を絞れば、見るべき記号も減ります。何を見るかの決め方は自社は何を管理すればいいのか(対象範囲の決め方)で扱っています。
凡例シートが見つかりません
管理対象物質リストは複数シートの表計算ファイルです。シートのタブが右端まで隠れていることがあるので、タブを右クリックしてシート一覧を表示してください。それでも見当たらない場合は、配布元のページから最新版を取り直してください。古い版には凡例が別ファイルで配布されていた時期があります。
記号が空欄の行は対象外ということですか
空欄の意味は版と要求区分によって異なるため、推測で対象外と判断しないでください。凡例シートに空欄の扱いが書かれている場合があります。書かれていない場合は、その要求区分ではその物質に基準が設定されていないという読み方が自然ですが、確定的な扱いは配布元への確認が必要です。
顧客から「A区分だけ回答してください」と言われました
その顧客が使っている版のリストと、その顧客の社内基準の両方を確認する必要があります。記号の定義は版によって変わり得るため、顧客がどの版を前提にしているかを先に聞いてください。版が特定できれば、そのファイルの凡例シートで定義を確認し、対象範囲を合意してから作業に入ると手戻りがありません。