均質材料(homogeneous material)は、EU RoHS指令の閾値を判定するときの分母です。この単位を一段大きく取ると、濃度が薄く計算されて超過を見落とします。
定義の骨格は単純です。機械的な作業では分けられない最小の単位。逆に言えば、機械的な作業で分けられるなら別の単位です。
機械的に分けられる、とは何か
切断、研削、剥離、粉砕、溶解といった作業を指します。ここでいう溶解は、素材を溶剤で溶かして取り出すような物理的操作のことで、化学反応で別の物質に変えることではありません。
| 状態 | 機械的に分けられるか | 単位の扱い |
|---|---|---|
| ねじの母材とめっき層 | 研削・剥離で分けられる | 別の単位 |
| 銅と亜鉛でできた黄銅 | 分けられない(合金) | 1つの単位 |
| 樹脂と、その中の添加剤 | 分けられない | 1つの単位 |
| 板金と塗膜 | 剥離できる | 別の単位 |
| 電線の導体と被覆 | 引き抜ける | 別の単位 |
合金は分けられません。黄銅から銅だけを機械的に取り出すことはできない。だから黄銅は1つの均質材料で、そこに含まれる鉛は黄銅全体の重量で割ります。
めっきは分けられます。だから母材とは別の単位です。めっき層は薄く軽いので、分母が小さくなり、濃度は高く出ます。この計算の実例は0.1%の分母は何か。均質材料の切り方に置きました。
10点の具体例
実務で問い合わせが多いものを並べます。区切り方の考え方であって、個別の製品構造によっては異なる切り方が妥当になることがあります。
| 対象 | どこで区切るか | 理由 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|---|
| めっきされたねじ | 母材/下地めっき/上層めっき/クロメート処理層 | 各層は剥離・研削で分けられる | 下地のニッケルと上層のクロムを一緒にしてしまう |
| プリント基板 | 銅箔/樹脂含浸層(ガラスクロスを含む)/ソルダーレジスト/表面処理層 | 銅箔とレジストは剥離できる | レジストを基材に含めて計算する |
| 電線 | 導体(撚線)/絶縁被覆/シース/シールド編組 | 被覆は引き抜ける | 被覆を1層と思い込む。内側と外側で配合が違うことがある |
| コネクタ | ハウジング樹脂/コンタクト母材/コンタクトめっき/シェル/シェルめっき | それぞれ物理的に分離できる | コンタクト1本を1単位としてしまう |
| ラベル付き筐体 | 筐体樹脂/ラベル基材/インキ層/粘着層 | ラベルは剥がせる | ラベルとインキを対象外と考える |
| 塗装板金 | 素地金属/下地処理層/下塗り/中塗り/上塗り | 層ごとに配合が違い、剥離できる | 塗膜全体を1単位として平均してしまう |
| 積層フィルム | 各層のフィルム/各接着層/蒸着層/印刷インキ層 | 層構成はデラミネーションで分けられることがある | 接着層を層数に数えない |
| 接着剤層 | 硬化後の接着剤そのもので1単位 | 硬化後は被着材から剥離できる | 接着面積が小さいため重量を無視してしまう |
| はんだ接合部 | はんだ合金で1単位 | 合金なので内部は分けられない | 接合部の重量を基板全体に混ぜて計算する |
| Oリング | ゴム本体で1単位(表面コーティングがあれば別単位) | 加硫後のゴムは分けられない | 表面処理の有無を確認しない |
10点のうち、単位が1つで済むのは、はんだ接合部・Oリング本体・接着剤層の3つだけです。残りは複数に割れます。部品点数より均質材料の数のほうがずっと多くなる、というのが実感に近い。
合金は1単位、という原則の意味
合金は分けられないので1単位です。これは判定を緩くする方向に働きます。
| 見方 | 分母 | 鉛の量 | 濃度 | RoHS判定 |
|---|---|---|---|---|
| 黄銅を1つの均質材料と見る | 12.0 g | 0.024 g | 0.200 % | 超過(適用除外の該当を確認) |
| 誤って銅相当分だけを分母にする | 7.9 g | 0.024 g | 0.304 % | 超過 |
| 誤って部品全体(他材質を含む)を分母にする | 45.0 g | 0.024 g | 0.053 % | 見落とし |
上の数値は計算手順を示すために作った架空の値です。実在する部品の測定結果ではありません。
なお、鋼・アルミ合金・銅合金中の鉛については、EU RoHS指令に適用除外項目6(a)〜6(c)があり、委任指令 (EU) 2025/2364 により新たな期限が2027年6月30日に設定されています。閾値を超えていても、除外に該当すれば上市できます。除外期限の集中についてはRoHS適用除外項目の期限が2027年に集中しているを参照してください。
めっきを別単位にする、という一手間
めっきを別単位にすると、それまで適合だった部品が超過に転じることがあります。だから心理的な抵抗が生まれます。
しかし、母材に溶かし込んで計算した値は、RoHS指令の判定に使える値ではありません。判定の単位を変えて数字を下げることは、計算のごまかしになります。
実務で困るのは、めっき層の重量が分からない場合です。この場合はめっき業者に処理条件を確認します。膜厚と処理面積と比重から概算し、概算であることを記録に残す。精度は落ちますが、単位を間違えるよりはるかにましです。
判断に迷ったときの取り方
分けられるかどうかがはっきりしない構造は必ず出てきます。含浸した樹脂とガラスクロス、共押出しした多層フィルム、拡散層のある表面処理などです。
このときの原則は1つです。分母を小さく取るほうを選ぶ。
| 選択 | 濃度の出方 | 起きること | 結論 |
|---|---|---|---|
| 分母を小さく取る(細かく分ける) | 高く出る | 実際は適合なのに超過と判定し、余計な調査や代替検討が発生する | 損は手間だけ |
| 分母を大きく取る(まとめる) | 低く出る | 超過品を適合と判定し、市場に出る | 損は回収・取引停止 |
手間と回収を天秤にかければ答えは決まります。迷ったら細かく切る。そのうえで、超過と出た部位について改めて構造を確認し、まとめてよい根拠が見つかれば戻す、という順序で進めるほうが安全です。
未確認
共押出しフィルムのように界面で物理的に分離できるか判断が難しい構造について、分離可能性の具体的な試験方法や判定基準を定めた公的文書を、本稿執筆時点で確認できていません。個別の構造については材料メーカーおよび試験機関に確認してください。
chemSHERPA-AIへの落とし込み
chemSHERPA-AIは、製品の下に構成部品、その下に材質という階層で入力します。この「材質」が、おおむね均質材料に対応します。
したがって、めっきを別単位と決めたなら、材質の行もめっき層の分だけ増えます。ねじ1本で材質が4行になることもあります。行数が増えるのは正しい姿で、行が少ないほうが不安です。
構成をどこまで細かく作るかの線引きは、自社は何を管理すればいいのか(対象範囲の決め方)で扱う対象範囲の話とつながります。管理対象物質リストのどの版で判定したかを併記しておく点は管理対象物質リストはどこを見ればいいのかのとおりです。
部品表から均質材料表を作る手順
設計部門が持っている部品表は、部品単位で作られています。均質材料単位ではありません。そのため、部品表をそのまま調査票にすると単位がずれます。
実務では、部品表に列を足して展開する方法が使えます。
| 部品番号 | 部品名 | 材質・処理 | 均質材料としての行 | 重量 | 情報の入手先 |
|---|---|---|---|---|---|
| P-001 | 六角ボルト | SWCH+Niめっき | 母材(鋼) | 4.80 g | ねじメーカー |
| P-001 | 六角ボルト | SWCH+Niめっき | Niめっき層 | 0.09 g | めっき業者 |
| P-002 | ハウジング | PBT+GF30 | 樹脂(GF含む) | 32.0 g | 樹脂メーカー |
| P-003 | 銘板ラベル | PET+インキ+粘着 | ラベル基材 | 0.4 g | ラベル業者 |
| P-003 | 銘板ラベル | PET+インキ+粘着 | インキ層・粘着層 | 0.2 g | ラベル業者 |
同じ部品番号が複数行になります。行が増えて見づらくなりますが、情報の入手先が行ごとに違うという事実がここで可視化されます。めっき層の情報はねじメーカーではなくめっき業者にしかない、という構図が見えると、調査の宛先を間違えなくなります。
新規部品が増えたときは、この表に行を足すところから始めます。部品を1行足して終わりにすると、表面処理層の調査が抜け落ちます。
社内で共有しておきたい1行
均質材料の区切り方は、担当者ごとにぶれます。ぶれると、同じ部品の含有率が回答のたびに変わります。
社内ルールとして次の1行を決めておくと、ぶれが減ります。
表面処理層は、種類ごとに独立した材質として登録する。母材と合算しない。
この1行があるだけで、めっきの扱いに関する差戻しはかなり減ります。差戻しの理由そのものは差戻し理由TOP10と、その直し方に並べています。
塗膜は下塗りと上塗りを分けないといけませんか
層ごとに配合が違うため、原則としては分けます。ただし塗料メーカーから層別の情報が得られないことがあります。その場合は塗膜全体としての回答を受け取り、層別の内訳が未取得であることを記録に残してください。全体の平均値で閾値未満でも、特定の層で超過している可能性は消えません。
はんだ接合部の重量をどう出せばいいですか
基板1枚あたりのはんだ使用量を工程側から取り、接合部の合計重量として扱う方法が実務的です。はんだは合金なので内部で分ける必要はなく、はんだ全体を分母にします。基板全体の重量に混ぜて計算すると分母が大きくなりすぎるので避けてください。
均質材料が何十個にもなって、入力が終わりません
点数が多いこと自体は正常です。負荷を下げる方法は、部品ではなく材質でマスタを作ることです。同じめっき仕様、同じ樹脂グレードは繰り返し出てくるので、一度作った材質行を使い回せます。台帳の作り方は無料でできる範囲から始めても機能します。