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はじめてのCiP管理

グリーン調達基準とは何で、なぜ会社ごとに違うのか

取引先ごとにグリーン調達基準が違うのは、担当者の気まぐれではありません。違いが生まれる理由には型があります。

取引先A社のグリーン調達基準では禁止されている物質が、B社の基準では管理対象にすら入っていない。C社は独自のExcel様式で提出を求め、D社はchemSHERPAで足りると言う。

こうなるのは、グリーン調達基準が法規制そのものではないからです。法規制の上に、各社が自分の事情で積み上げた自主基準です。

二層構造で見る

中身決めているのは誰か変わる頻度
下層:法規制EU RoHS、REACH(SVHC・Annex XVII)、POPs規則、化審法、各国RoHSなど各国・地域の当局SVHCは年に数回、その他は随時
中層:業界要求GADSL(自動車)、IEC 62474(電気電子)、JAMA・JAPIA統一データシート業界団体年1〜2回
上層:自主基準各社が独自に禁止・削減対象とする物質、報告様式、提出頻度取引先各社各社の判断で随時
グリーン調達基準の二層構造

下層は全社共通です。EU向けの電気電子機器なら、どこの会社でもRoHS10物質は守ります。閾値も同じです。カドミウム0.01重量%、その他9物質0.1重量%、均質材料単位。ここに会社ごとの差はありません。

差が出るのは中層と上層です。特に上層は各社の判断なので、同じ物質について「禁止」「削減」「報告のみ」「対象外」が並びます。

法規制側の現在地はRoHSとREACHとSVHC、関係を1枚で理解するに、業界要求を含む物質リストの構造は管理対象物質リストはどこを見ればいいのかに置いています。

なぜ会社ごとに違うのか

違いには3つの由来があります。

由来1:仕向地が違う

EUにしか出していない会社と、EUと米国と中国に出している会社では、見なければならない規制が違います。

米国に出しているなら、州法が効きます。ミネソタ州のPFAS報告は初回期限が2026年9月15日、以降は毎年2月1日です。対象は2023年7月1日以降に製造され州内で販売される製品。メイン州は2026年1月1日から清掃製品・調理器具・化粧品・繊維製品などで規制が始まり、2032年1月1日には意図的添加PFASを含む全製品が対象になります。

中国に出しているなら、GB 26572-2025です。推奨規格から強制国家標準に格上げされ、2025年8月1日公布、2027年8月1日施行。制限物質が6種から10種に増え、DBP・DIBP・BBP・DEHPが各0.1%以下で追加されます。

こうした仕向地ごとの要求が、そのままグリーン調達基準に載ります。だからA社とB社で内容が違う。

由来2:業界が違う

自動車業界ならGADSLとIMDSが中心です。電気電子業界ならIEC 62474とchemSHERPAです。医療機器ならEU MDRが効きます。玩具なら規則 (EU) 2025/2509 が2030年8月1日から適用され、CMR物質・内分泌かく乱物質の禁止、PFAS及びビスフェノールの特定禁止、アレルギー性香料の許容濃度引き下げが入ります。

同じ部品を複数業界に納めている会社は、複数の業界要求を同時に満たすことになります。

由来3:過去に痛い目を見ている

これが最も見落とされます。ある会社の基準に、法規制にも業界要求にもない物質が1つだけ入っている。理由を聞くと、過去にその物質でリコールまたは納入停止を経験している、というケースがあります。

同じく、報告頻度が異常に高い会社、分析成績書の添付を必須にしている会社、年1回の再提出を求める会社。これらもたいてい過去の不適合が背景にあります。

こういう要求は、理屈で押し返しても通りません。背景を理解したうえで、対応コストを見積もるほうが早い。

基準書のどこを最初に読むか

グリーン調達基準書は数十ページあることが多いのですが、実務で必要なのは3か所です。禁止物質と閾値の一覧、提出を求める様式と頻度、適用開始日と経過措置。この3つを先に抜き出せば、全文を読まなくても対応の見積もりができます。

基準が矛盾したときの3つの選び方

取引先が複数あると、基準がぶつかります。A社は物質Xを全面禁止、B社は0.1%まで許容、C社は報告のみ。どうするか。選択肢は3つです。

選び方向いている条件コストリスク
最も厳しい基準に合わせる品目が少ない/材料変更の余地がある/取引先が今後増える材料切替費用が一度に発生低い。ただし過剰品質になりうる
製品系列で分ける取引先ごとに品番が分かれている/生産ラインを分けられる管理コストが恒常的に増える中。取り違えが起きる
個別に交渉するその取引先の売上比率が高い/技術的に代替がない交渉工数。担当者の負荷中〜高。交渉が通らなければ振り出し
複数基準が矛盾したときの3つの選び方

判断軸は3つで足ります。

ひとつ、品目数です。品番が数十なら最も厳しい基準に統一するほうが安い。数千あるなら系列で分けざるを得ません。

ふたつ、代替の有無です。物質Xに代替材料があり、性能が落ちないなら統一が合理的です。代替がない、あるいは代替すると性能が落ちるなら交渉に行きます。

みっつ、取り違えのリスクです。同じ工場で基準の違う品番を作ると、材料を取り違えます。ラインを分けられないなら統一するほうが安全です。

現実には「最も厳しい基準に統一」が選ばれることが多い。ただしこれは無条件に正しい選択ではありません。使う必要のない高価な材料に全品番を切り替えて、原価が上がり、その分を誰も負担してくれない、という結果になることがあります。統一する前に、厳しい側の要求が本当にその品番に効くのかを確認してください。

交渉に行く場合、押し返せるのは「その基準が自社の納入品には技術的に無関係である」ことを示せるときです。たとえば、めっき液に関する制限が自社の納入品には該当しない、といった説明です。感情論では動きません。

提出様式が矛盾したとき

物質基準ではなく様式でぶつかることもあります。A社はchemSHERPA、B社は独自Excel、C社は紙の証明書。

この場合は統一しません。データは1つ作り、出し方を変えます。chemSHERPA-AIのデータを作っておけば、そこから独自Excelにも証明書にも展開できます。逆はできません。最も情報量の多い形で1つ作り、そこから落としていくのが原則です。

証明書に落とすときの項目立ては不使用証明書と非含有証明書の違い、そして書き方に記載例を置きました。

自社が基準を作る側になったとき

規模が大きくなると、自社も仕入先にグリーン調達基準を出す側になります。そのときの注意が4つあります。

ひとつ、法規制をそのまま写さないことです。「RoHS10物質を禁止」とだけ書いた基準書は、仕入先にとって情報がありません。閾値、分母(均質材料単位か製品単位か)、適用除外の扱いを書いてください。除外を認めるのか認めないのかを書いていない基準書が非常に多い。

ふたつ、様式を増やさないことです。上流の企業にとって、調査回答は売上にならない作業です。公開フォーラムでも上流側から「フォーマットが増える不利益のほうが大きい」という趣旨の声が出ています。chemSHERPAで足りるなら独自様式は作らないほうが回収率は上がります。回収の段取りは返ってこない調査依頼の督促テンプレート3段階に。

みっつ、版数と改訂日を必ず書くことです。基準書に版数がないと、仕入先はどの版に対して回答したのか記録できません。SVHC候補リストは2026年9月時点で253エントリーあり、追加のタイミングも従来の定期更新から外れています。「最新のSVHC」という書き方ではなく、「第35次追加時点(2026年2月4日)」のように時点で書いてください。

よっつ、達成不能な要求を書かないことです。「不純物を含め一切含有しないこと」と書くと、誰も署名できません。物理的に検出限界以下でしか言えないものを「一切」と書くのは、実務上は回答拒否と同じ結果を招きます。閾値と分母で書きます。

基準改訂に追随する体制

グリーン調達基準は改訂されます。取引先各社がそれぞれのタイミングで改訂するので、追随は手作業になります。

最低限やることは2つです。取引先ごとに現在適用されている基準書の版数を一覧にすること。そして、改訂通知を受け取る窓口を一本化することです。担当者個人のメールに届いて、異動で消える、という事故が多い。

月10件以下の依頼件数であれば、Excelと共有フォルダで回ります。システムの検討はその後でよい、という考え方は月10件以下ならシステムは要らないに書きました。

グリーン調達基準に従わないと法律違反になりますか

基準そのものは各社の自主基準なので、従わなくても直ちに法律違反にはなりません。ただし取引条件として合意していれば契約上の問題になり、納入停止や取引解消につながります。基準の中に法規制由来の部分が含まれている場合、そちらは当然に法的な義務です。両者を分けて読んでください。

取引先の基準が法規制より緩い場合はどうすればいいですか

法規制が優先します。取引先の基準に書かれていなくても、自社が出荷する製品の遵法責任は自社にあります。取引先の基準が古い版のままで最新のSVHCを反映していない、という状況はよく起きます。基準に従えば法令に適合する、とは考えないでください。

基準書が英語や中国語で届いた場合はどうしますか

禁止物質表と閾値の部分だけは正確に読む必要があります。機械翻訳でも物質名とCAS RNと数値は読み取れます。判断に迷う条文があれば、取引先の窓口に日本語での確認を求めてください。曖昧なまま署名するより、確認の往復を1回入れるほうが安全です。

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