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法規制解説

REACH規則を実務目線でわかりやすく

制度の全体像を覚える必要はありません。自社に降ってくるのがどの条文かが分かれば、あとは調べる範囲が決まります。

REACHの入門資料を開くと、登録・評価・認可・制限という4本柱の図が出てきます。この図を覚えても実務は進みません。日本で部品や完成品を作り、EUへ出している会社が実際に手を動かすのは、そのうちのごく一部だからです。

先に結論を書きます。成形品(製品・部品といった形のあるもの)を輸出する立場で日常的に関わるのは、第33条の情報伝達義務と、SCIPデータベースへの届出の2つです。残りは「自社が義務者かどうか」を一度判定すれば、以後は該当物質が増えたときに見直すだけで足ります。

4本柱のうち、どこが自社に当たるのか

REACHは物質を作る側・使う側の両方に網をかけた規則です。ただし義務の相手はEU域内の事業者で、日本の輸出者そのものではありません。日本側に来るのは、EUの取引先経由の情報要求という形です。

何を求める仕組みか義務を負うのは誰か日本の成形品メーカーへの当たり方
登録一定量以上の物質について情報を届け出るEU域内で製造・輸入する事業者直接の義務者ではない。EUの輸入者から確認を受ける立場
評価届け出られた情報を当局が精査する当局側の手続き直接の手続きはない。結果として候補リストや制限に反映される
認可(Annex XIV)指定された物質の使用を原則禁止し、個別許可制にするEU域内で使用・上市する事業者該当物質を使った部材があると、EU側が使えなくなる
制限(Annex XVII)物質の製造・上市・使用そのものに条件や禁止をかけるEU市場に出る製品すべて成形品でも当たる。設計変更が必要になる
第33条(情報伝達)候補リスト収載物質を含む成形品の情報を伝える成形品をEU市場に供給する事業者ここが日常業務の本体
REACHの4本柱と、日本の成形品メーカーとの距離

表の最後の行を太い線で囲むつもりで読んでください。調達や品質保証の担当者が年に何度も対応するのは、ほぼこの1行です。RoHSとの役割分担が曖昧なままだと調査範囲がぶれるので、RoHSとREACHとSVHC、関係を1枚で理解するも合わせて見ておくと迷いが減ります。

第33条が求めているのは「伝えること」

第33条は、候補リスト(SVHC候補リスト)に収載された物質を0.1重量%を超えて含む成形品をEU市場に供給する事業者に対し、受け取る側が安全に扱えるだけの情報を伝えるよう求めています。ECHAの原文では "in a concentration above 0.1% weight by weight (w/w)" という書き方になっています。

ここで押さえる点は3つあります。

  1. 禁止ではない。含んでいても伝えれば出荷できる
  2. 閾値は0.1重量%「超」で、ちょうど0.1%は超えていない
  3. 分母は成形品の単位で取る。完成品全体で薄めない

3つ目が最も事故になります。ユニット全体の重量で割って「0.02%だから対象外」とする回答が上流から返ってくることがあり、そのまま受け取ると判定を誤ります。分母の取り方は0.1%の分母は何か。均質材料の切り方に具体例を並べています。

伝える相手は、原則として事業者間の取引先です。消費者から求められた場合の扱いは別に定められています。伝える内容は最低限、物質名と安全な使用のための情報です。物質名だけ書いて「取扱上の注意は特にありません」で済ませている例をよく見ますが、なぜ特にないのかが書かれていないと、受け取った側が判断できません。

SCIPは第33条の延長線上にある

SCIPは、候補リスト収載物質を0.1重量%超で含む成形品について、ECHAのデータベースへ届け出る仕組みです。届出義務は2021年1月5日に始まりました。届出義務者はEU域内で上市する事業者なので、日本側は届出そのものではなく、届出に必要な情報を渡す役割になります。

ただしこの仕組みには大きな動きがあります。欧州委員会は2025年12月10日にEnvironmental Omnibusを採択・公表し、SCIPデータベースの廃止を提案しました。理由として挙げられているのは、リサイクル業者への情報提供に有効に機能しておらず、企業側の行政負担が過大であるという点です。代替はDPP(デジタル製品パスポート)とされています。欧州議会と理事会の審議待ちで、廃止時期は決まっていません。経緯はSCIPデータベースが廃止されるかもしれないに分けて書きました。

廃止提案が出ているからといって、今の届出を止める判断はできません。決まるまでは現行のまま動くのが原則です。

認可と制限は、似ているようで使い分けが違う

Annex XIVが認可、Annex XVIIが制限です。実務でよく混ざるので、違いを表にしておきます。

認可(Annex XIV)制限(Annex XVII)
規制の形原則禁止。使うには個別に許可を取る条件付き禁止。用途や濃度で線を引く
対象となる行為EU域内での使用・上市製造・上市・使用
輸入成形品への効き方成形品に含まれる状態での輸入は原則対象外成形品に含まれていても対象になる
日付の考え方日没日(サンセットデート)を過ぎると許可なしでは使えない適用日以降、条件を満たさないものは出せない
自社への影響の出方EU域内の顧客や加工先が使えなくなる自社製品がそのままEUに出せなくなる
認可(Annex XIV)と制限(Annex XVII)の違い

認可の対象になった物質は、まずECHAが推奨リストを作り、欧州委員会がAnnex XIVに追加するという順で進みます。第12回推奨は2025年11月18日に確定し、メラミン、バリウムジボロンテトラオキシド、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドなど4物質が挙がりました。推奨の段階ではまだ規制は発効していません。ここを「もう禁止された」と読むと、必要のない設計変更に走ることになります。

六価クロムは、規制の枠そのものが動いている

六価クロム13物質群の扱いは、認可から制限へ枠を移す方向で進んでいます。日程を並べます。

時期出来事
2023年9月29日欧州委員会がECHAに検討を要請
2024年4月29日対象物質の追加
2025年4月11日ECHAが制限提案を公表
2025年6月18日〜12月18日パブリックコンサルテーション
2025年8月19日欧州委員会がQ&Aを更新
2027年中(最良シナリオ)採択の見込み
六価クロム関連の経緯(2026年9月時点)

進め方はAnnex XIVからの削除と、Annex XVIIへの導入という2つの法令を組み合わせる方式です。認可の枠から外して制限の枠へ移すという意味で、成形品を輸入する側から見ると影響の出方が変わります。認可のままなら輸入成形品には原則効きませんが、制限に移れば輸入品にも直接かかります。めっきや表面処理を外注している会社は、ここを見ておく価値があります。

採択が2027年中というのは最良のシナリオでの見込みで、確定した日程ではありません。前倒しも後ろ倒しもあり得る前提で置いておいてください。

未確認

制限が導入された場合の移行期間の長さ、および成形品中の六価クロムに適用される具体的な濃度条件は、2026年9月時点で本サイトでは未確認です。確定情報はECHAおよびEUR-Lexの原文で確認してください。

候補リストは増え続ける。そこだけ追えばよい

第33条の対象物質は候補リストです。このリストは追加のたびに増え、2026年9月時点で253エントリーになっています。追加の履歴と、エントリー数と物質数が別物であることはSVHC候補リストの最新状況にまとめてあります。

追加されたら何をするかを先に決めておくと、当日の負荷が下がります。手順はSVHCが追加された時の影響調査を1日で終える手順に時間割の形で書きました。

REACH改正そのものは止まっている

規則の本体を改正する動きもありましたが、2026年4月27日、欧州委員会のJessika Roswall環境担当委員が欧州議会ENVI委員会で、現段階でREACH改正の立法案は提出しないと表明しました。棚上げになった内容には、登録有効期間を10年とする案、ポリマー登録の義務化、低トン数物質の情報要件拡大、MAF(混合配分係数)の導入などが含まれます。

つまり、当面のREACH対応は今の枠組みのまま続きます。改正を待って準備を止める理由はありません。詳しくはREACH改正が棚上げになった経緯を見てください。

明日から何をするか

はじめて担当になった人が、この記事を読んだあとに取れる行動は次の3つです。

  1. 自社のEU向け出荷品を洗い出す。品番と、その中の部位まで落とす
  2. 候補リストの最新版と、自社で使っている管理対象物質リストの版を突き合わせる
  3. 仕入先への照会経路(誰に、どの様式で聞くか)を書き出す

このうち1が一番時間がかかり、一番効きます。品目と部位の一覧が手元にあるかどうかで、次にSVHCが追加されたときの作業時間が数日単位で変わります。判断の責任が誰にあるかを先に決めておく話は遵法判断は誰がするのか、という最大の誤解に書きました。

REACHの登録は日本の会社でも必要ですか

登録の義務を負うのはEU域内で製造または輸入する事業者です。日本から成形品を輸出する立場では、登録の申請者になるわけではありません。ただしEU側の輸入者から、使用している物質について確認を求められることはあります。求められたら答えられるよう、成分情報を手元に持っておく準備は必要です。

候補リストに載った物質が入っていたら、EUに売れなくなりますか

候補リストに載っただけでは販売禁止にはなりません。第33条が求めているのは情報の伝達です。販売そのものに制限がかかるのは、その物質がAnnex XIV(認可)またはAnnex XVII(制限)に入った場合です。候補リスト収載と使用禁止を同じものと考えると、必要のない材料変更に走ることになります。

0.1%の分母は製品全体ですか、部品ごとですか

成形品の単位ごとに判定します。完成品全体の重量で割って薄めることはできません。ねじのめっき層のような薄い層でも、その層を単位として見ます。上流から「製品全体で0.0X%」という回答が来たら、分母の取り方を確認してください。

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