PPWRの適合手続を調べていくと「Module A」という言葉に行き当たります。これは内部生産管理と呼ばれる適合評価の方式で、第三者認証機関の審査を経ずに、事業者自身が適合を宣言できる仕組みです。ここだけを読むと「認証がいらないなら簡単そうだ」と受け取られがちですが、実務上の負担が減るわけではありません。
Module Aが意味すること
EUの製品規制には、適合評価の方式がいくつか定められています。医療機器や特定の電気製品のように、第三者認証機関による審査を必須とする方式もあれば、Module Aのように事業者自身の判断と宣言で完結する方式もあります。PPWRは包装についてModule Aを採用しており、通知機関(第三者認証機関)の関与は基本的に不要です。
これは、月刊化学物質管理のQ&A連載(第13回)でも確認されている解釈で、PPWRの適合宣言は自己宣言として認められています。適合宣言書(DoC)のAnnex VIIIにある通知機関情報の項目も、Module Aでは通常空欄になります。DoCの各項目の書き方は適合宣言書(DoC)の書き方にまとめました。
「認証が要らない」の裏側
第三者機関の審査がないということは、適合しているかどうかの判断を外部の目でチェックしてもらえないということでもあります。審査という工程が省略される代わりに、宣言内容が正しいことの立証責任は、すべて事業者自身に残ります。
DoCの3番の項目には「単独責任の宣言」が含まれています。これは形式的な一文ではなく、Module Aという制度設計そのものを反映したものです。第三者の目を経ていない宣言だからこそ、当局から求められたときに裏付けを示せる状態にしておく責任が重くなります。
誤解しやすいポイント
「認証機関に出せば終わり」という発想は、Module Aの仕組みと合いません。実務でよくある誤解を次の表にまとめました。
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| どこかの機関に申請すれば適合証明がもらえる | 申請先という概念自体が存在しない。事業者自身が宣言する |
| 認証機関の審査に落ちると再申請が必要になる | 審査自体が発生しないため、再申請という概念もない |
| 認証が不要なら技術文書も簡易でよい | 技術文書の作成義務はModule Aでも変わらず存在する |
| 一度宣言すれば恒久的に有効 | 包装の仕様が変われば、DoCと技術文書の更新が必要になる |
とりわけ最後の項目は見落とされがちです。Module Aは一度きりの手続きではなく、包装の仕様変更やサプライヤーの変更のたびに、宣言内容が現状と一致しているかを確認し直す継続的な作業です。年に一度など、決まったタイミングで既存のDoCと技術文書を棚卸しする運用にしておくと、変更の反映漏れを防げます。
他の適合評価方式との違い
EUの製品規制では、対象製品のリスクの大きさに応じて適合評価の方式が使い分けられています。医療機器や一部の測定機器のように人体や安全に直結するリスクが高い製品は、第三者認証機関の審査を必須とする方式が採られます。一方で、電気製品や玩具の一部、そして包装のように、事業者自身の技術力と誠実な宣言に委ねられる領域では、Module Aのような内部生産管理の方式が採られることが一般的です。
包装がModule Aで足りるとされているのは、包装そのものが直接的な安全リスクを持つ製品ではなく、環境負荷や資源循環に関わる規制だという性質を反映しています。とはいえ、食品接触包装のPFAS制限のように、健康に関わる項目も含まれているため、リスクが低いから手を抜いてよいという意味ではありません。PFASの基準値は食品接触包装のPFAS。25ppb / 250ppb / 50ppmの3つの数字で扱っています。
社内の承認フローに組み込む
Module Aのもとでは、DoCへの署名が実質的に「認証機関の代わり」の役割を果たします。そのため、署名者が宣言内容を十分に理解しないまま押印する運用は避けるべきです。
実務的には、次のような社内承認フローを組んでおくと、単独責任の宣言と実態が乖離しにくくなります。まず技術文書の担当者が一次データを収集し、内容の整合性を確認します。次に、品質保証や法務など、宣言内容に責任を持てる部門がその内容をレビューします。最後に、レビューを経た内容についてのみ、権限を持つ人物がDoCに署名します。この3段階を踏むことで、後から宣言内容に疑義が生じた場合にも、確認の経緯を説明できる状態になります。
小規模な組織で担当者が1人しかいない場合でも、少なくとも技術文書の内容を上長が確認してから署名する、という最低限のダブルチェックは残しておくことをおすすめします。人員に余裕がない会社ほど、この最低限のチェックを省略しがちですが、単独責任の宣言である以上、省略した分のリスクはそのまま会社に残ります。
証明責任が自社に残るという前提での実務
証明責任が自社に残るという前提に立つと、実務の優先順位が見えてきます。まず、技術文書(Annex VII)を宣言の裏付けとして整備すること。次に、包装サプライヤーから得た証跡(素材構成表、試験成績書、再生材証明など)を、後から追跡できる形で保管しておくこと。そして、包装の仕様が変わった際に、DoCと技術文書を更新する運用を社内に組み込んでおくことです。
技術文書に何を綴じるかは技術文書(Annex VII)に何を綴じるのか、保管の実務は5年/10年の保管義務と、当局要求から14日で出す備えにまとめています。
代行事業者を使う場合の役割分担
DoC・技術文書の作成を代行事業者に依頼する場合でも、Module Aである以上、最終的な宣言の責任主体は自社のままです。代行事業者が担うのは、書式の整備や試験の手配であり、宣言内容そのものの正しさを保証する第三者機関の役割ではありません。
代行を依頼する際は、どこまでが代行事業者の作業範囲で、どこからが自社の確認・承認事項かを、契約の時点で明確にしておくことをおすすめします。代行事業者の比較は、収益ページとして別途扱う予定です。
代行事業者に丸投げしてしまうと、DoCの内容を自社が把握していない状態で署名だけを求められる場面が出てきます。単独責任の宣言という性質上、内容を理解しないまま署名することは避けるべきです。代行事業者から納品された文書は、社内でも一度目を通し、記載されている包装の識別情報や適用規格が実態と合っているかを確認してから署名する運用をおすすめします。
棚卸しのタイミングを決めておく
包装の仕様変更は、設計変更や仕入先の切り替えなど、化学物質管理の担当者が把握しにくいところで起きることがあります。年に一度の棚卸しに加えて、包装の仕様変更が発生した際に化学物質管理の担当者へ連絡が来る仕組みを、購買・設計部門とのあいだで決めておくと、変更の反映漏れをさらに減らせます。
小さな変更であっても、DoCの4番に記載した型式やバッチの範囲から外れる場合は、既存の宣言の対象外になります。「前と似たような包装だから大丈夫」という判断はせず、変更のたびに対象範囲を確認する習慣をつけてください。
Module Aだと違反しても分かりにくいということですか
そうではありません。当局は市場監視の枠組みの中で、随時DoCや技術文書の提出を求めることができます。審査を経ていない分、提出を求められたときに裏付けを示せるかどうかが、より重要な意味を持ちます。
認証機関に相談すること自体が不要ということですか
Module Aでは通知機関への申請という手続きは不要ですが、試験機関に分析や試験を依頼することは別の話です。PFASや重金属の含有確認など、専門的な試験は引き続き外部の試験機関に依頼することになります。
包装の仕様を少し変えただけでもDoCの更新は必要ですか
DoCの4番(包装の一意識別)に記載した型式やバッチが変わる場合、あるいは適合の根拠となる素材構成が変わる場合は、更新が必要です。軽微な変更かどうかの判断に迷う場合は、技術文書の内容と整合しているかを基準に確認してください。